« ソフトウェア品質モデルの歴史(3)-品質モデルの開発と標準化 | Main

07 April 2013

RIP:香川大学 古川善吾先生(日本発のテスト技法の歴史)

JaSST東京共同実行委員長を務められていた香川大学の古川善吾先生が3月30日に逝去されました( http://aster.or.jp/obituary/furukawa.html )。先生は私と同学年で、若くはないですが逝くのには早すぎる年齢でしたので突然の訃報に驚きました。

先生とは2006年1月に開催されたJaSST'06東京で初めてお会いしましたが、実は「古川善吾」というお名前は1980年代前半から日立製作所のAGENTというツールの名前とともに存じあげていましたので、情報交換会の場でお話しさせていただいたのを覚えています。その後も毎年JaSSTでお会いする度にご挨拶させていただいていました。

このAGENTは私のソフトウェアテストへの取り組みの原点の一つと言っても過言ではありません。昨年、デブサミ10周年記念書籍「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著・君のために選んだ1冊」に、テスト担当チームに配属された新人さんに贈りたい1冊としてG.J. Myersのソフトウェア・テストの技法(The Art of Software Testing)をあげて「ソフトウェアテストにはライフワークの価値がある」というタイトルで寄稿しました。
その中で以下のように書いています。

  : 原因結果グラフという技法があることを知ったのもこの本です。
  : 1984年頃に日立製作所が原因結果グラフからテスト項目を作成
  : するツールAGENTを開発していることを日立評論で読んだときに
  : は論理的でスマートな方法に憧れの念を覚えました。その後、
  : 自分たちもテスト要因の分析や直交表ベースの組合せを支援する
  : ATAFというテスト項目設計支援システムを開発しましたが、この
  : 憧れが開発のモチベーションのひとつであったことは確かです。

AGENTは日本のテスト設計ツールの草分けでもあります。2009年に出版された「ソフトウェア・テストPRESS Vol.9」で私は「続・ソフトウェアテスト・ヒストリー 日本編」を寄稿しましたが、その中のコラム「日本で考案されたテスト技法」で日本発のテスト技法としてAGENT/機能図式(日立製作所)、直交表(富士通)、CFD法(NEC)をあげました。AGENT/機能図式については以下のように書いています。

  : 1980年代にはいって日本でもテスト技法の考案、ツールの開発が
  : 行われました。
  : ◆ AGENT/機能図式(日立製作所)
  : 1980年に日立製作所で、Elmendorf(原因結果グラフ技法の考案 
  : 者)の論文や、Myersの"The Art of Software Testing"を参考に
  : 原因結果グラフからテストケースを生成するツールAGENT
  : (Automated GENeration system for Test cases)が開発されまし
  : た。
  : その後、同社では1982年に機能図式と呼ぶ機能仕様表現形式を
  : 考案し、AGENTをエンハンスしています。
  : 機能図式では、機能仕様の動的な部分を状態遷移で、静的な部
  : 分をデシジョンテーブルあるいは原因結果グラフで表現し、これら
  : を組み合わせてテストケースを生成しています。
  : 1984年以後の適用状況やエンハンス状況が不明なのが残念です。

振り返ってみると、1980年代前半は日本の各コンピュータメーカーが競い合って伸びていった時代であり、その中でソフトウェア技術者も他社の状況を調査して切磋琢磨していました。当時は私は(古川先生も)30歳前後でいろいろな資料を調べながら、テストや検査の技術開発に取り組んでいました。当時の日立評論のAGENTの資料のコピーは今でももっています。古川先生も日立の研究所で新しいテスト技術の開発に必死で取り組まれていたことと思います。以下はソフトウェア・テストPRESSの記事を執筆するときに調査したAGENT関連の論文です。

<AGENT関連の参考文献>
古川善吾・野木兼六, 機能テストのためのテストケース作成法について, 情報処理学会第21回全国大会予稿, pp.367-368, 1980
古川善吾・野木兼六・越智毅, 機能テストのためのテスト項目作成手法について, 情報処理学会ソフトウェア工学研究会資料16-2, Vol.1980 No.31, 1980-SE-016, 1980
古川善吾・野木兼六・小川茂・越智毅, ソフトウェアテスト項目作成支援システムAGENTの開発, 情報処理学会第22回全国大会予稿, pp.323-324, 1981
古川善吾・野木兼六・竹内久, ソフトウェアテスト項目作成支援システムAGENTにおけるグラフチェック支援機能の開発, 情報処理学会第24回全国大会予稿, pp. 357-358, 1982
古川善吾・野木兼六・徳永健司・小森真一, ソフトウェアテスト項目作成支援システムAGENTにおける仕様記述法の拡張, 情報処理学会第25回全国大会予稿, pp.437-438, 1982
古川善吾・車谷博之・野木兼六・徳永健司, ソフトウェアテスト項目作成支援システムAGENT-IIの開発と評価, 情報処理学会ソフトウェア工学研究会資料28-8, Vol.1982 No.57, 1982-SE-028, 1983
野木兼六・古川善吾・保田勝通, ソフトウェアテスト項目作成支援システム, 日立評論, 66(3), pp.29-32, 1984
古川善吾・野木兼六・徳永健司, AGENT: 機能テストのためのテスト項目作成の一手法, 情報処理学会論文誌, 25(5), pp.736-744, 1984

古川先生は、その後、日立製作所から九州大学、香川大学へと移られましたが、ずっとソフトウェアテストの研究に取り組まれました。正にソフトウェアテストをライフワークとされた訳です。これまでJaSSTを始め日本のソフトウェアテストコミュニティに多大な貢献をされてきましたが、今後は先生の遺志を継いで、私も少しでも貢献できるように取り組んでいきたいと思います。
ご冥福をお祈りいたします。

|

« ソフトウェア品質モデルの歴史(3)-品質モデルの開発と標準化 | Main